Mind Inerview06「ぶれないこだわりが 説得力を生むのです。」岡田 秀俊 シェフ

Index

  • 01 素材に感謝があたりまえ
  • 02 自分を追い込み磨きをかける
  • 03 理想との出会い
  • 04 古きを守り、新しきを求める

Chapter01 素材に感謝があたりまえ

食材と会話を楽しみながら

 今でも私の心に残っている、尊敬する料理人の言葉があります。

 「料理人は、素材に感謝をしなければならない」

 日本におけるフランス料理人の第一人者として知られるジャック・ボリー氏の撮影に同行した際に、ご本人が話されていた言葉です。素材に感謝し敬意を払うことが、食材を大事に扱い、丁寧に調理し、素材の味を最大限に引き出した美味しい料理の完成へとつながる。
ごく当たり前で忘れられがちだけれども、それこそが料理人が食材に対してできる最高の恩返しであるという意味が込められた言葉だと思います。この言葉を胸に、私は常日頃食材との会話を楽しみながら調理を行っています。

Chapter02 自分を追い込み磨きをかける

寿司職人にあこがれて

 私はもともと、寿司職人になりたいと思っていました。寿司職人を目指して入学した調理師学校で月に何回か授業を受け持っていただいた講師が、フランス料理界で有名な「ル・マンジュ・トゥー」の谷昇氏でした。
その出会いが、私がフランス料理に興味を持つきっかけとなり、私の人生に大きな影響をあたえたのです。

 フランス料理とは……レストランとは……仕事とは……料理人とは……様々な考え方を彼から教わりました。私が常に心に留めている「すべてにおいて、継続することが力になり経験の糧になる」という信念も、谷氏から学んだ多くの教えの中の一つです。
そのような出会いを経て、卒業前には、憧れの谷氏のようなフランス料理店のオーナーシェフになろうと決意。彼が過去に在籍したフランス料理店「イル ド フランス」の門をたたきました。

 そこでの三年間の修行は、とにかく厳しいの一言に尽きました。しかしだからこそ、基礎をしっかり身につけることができたのは事実です。料理人としての技術はもちろんのこと、給仕(サーヴィス)の面も学べる機会を得たことで、直接お客様に応対するサーヴィススタッフがどのように考えているのかを知ることができ、レストランにおけるチームワークの大切さを実感しました。

 レストランは、決してひとりではできません。スタッフに気を遣えない者は、お客様に気を遣えるはずがないと教わりました。サーヴィススタッフ、キッチンスタッフ、料理に携わるすべての人に感謝する気持ちは、今でも私が大切にしていることの一つです。

500通の手紙

 厳しい修行時代を経て、代官山にあるレストラン「ル・プティ・ブドン」へ。
実はフランス料理を志した時から、いつかは本場のフランスで修業しようと心に決めていた私ですが、「ル・プティ・ブドン」でフランス人シェフ、フィリップ・バットン氏の元で働くことで、ますますフランスで学びたいという気持ちが強くなりました。

 当時、フランスで働きたいという意思を伝えるためにフランスの料理店に手紙を500通くらい書きました。しかし、返事が来たのはたった5通だけでした。
それでも返事が来たことに希望を抱き、単身フランスへ。運よく、ミシュラン三ツ星のレストランで修業させていただくことができました。その後、ノルマンディーのミシュラン一つ星レストランに移り、修行を重ねました。

 言葉が通じず、資金もない。とにかく自分自身の力で状況を解決するしか手段はありません。自分の真価を問う絶好の機会となりました。また、現地の食材の味・雰囲気を存分に感じながら調理経験を積んだことで、改めて歴史あるフランス料理を育てた「土壌」を感じることができ、私にとって忘れることのできない貴重な経験となりました。

 そんな中、帰国を決めるきっかけとなったのは、ある時耳にした日本のフランス料理店「ロオジエ」の存在でした。フランス滞在中にも、たびたび日本のレストランの情報を知人から聞いていたのですが、その中でもひときわ評判の高かった「ロオジエ」でぜひ働いてみたいという気持ちに駆られ、ついに日本へ帰ることを決めました。

Chapter03 理想との出会い

理想のシェフ像を追って

 帰国後は希望通り、「ロオジエ」で勤務できる幸運に恵まれました。
「ロオジエ」は日本を代表するグランメゾンです。その名にふさわしい技術の高い料理人がたくさんいました。

 ここで、私は現「エメ・ヴィベール」のシェフ、若月稔章氏と運命的な出会いを果たしました。 私が言うのも失礼なのですが、数多くの才能あるシェフたちの中にあって、若月氏は一段とプロ意識が高い方でした。その仕事に対する真摯な姿勢は、今でも見習わなければいけないと思う面が多々あります。

 若月氏は忙しさにかまけず常に冷静に状況を判断し、時間通りに、完璧な仕上がりで料理をお客様に提供します。様々に状況が変化する現場にあって、いつも寸分違わず完璧な料理を仕上げるというのは、想像以上に難しいことです。それを日々体現する氏は、まさに真のプロフェッショナルであり、私の理想のシェフ像でした。

 若月氏の持つフランス料理の考え方や技術を少しでも多く学び取りたいという一心で、とにかく自分の与えられた仕事を早く終わらせて、できる限りその手伝いをしました。そのような前のめりの姿勢で仕事に取り組むことで、彼からはたくさんのことを学ばせてもらいました。

もっと、もっと美味しいものを

 その後「エメ・ヴィベール」へ若月氏と共に移り、レストランに加え、ウェディングパーティーの業務を行うことになりました。

 はじめの頃はウェディングの料理を作ることがほぼ未経験という中で、とまどいがありました。まず、一度にお料理をご提供する人数からして大きく違います。当初は、お客様に完璧な状態でお料理を提供したいがために、多くのゲストに同時に温かい料理が提供できるシンプルなメニューを中心に構成していました。
ウェディングに出席していただいたゲストが、レストランに再度お越しになるようになってきた頃から、ウェディングメニューに対する自分の考え方が変わってくるのを感じました。

 当レストランでウェディングを行うことを決められたお客様は、お料理でゲストの皆様をおもてなししたいと考えて、決定されている方が大半です。そのお客様の期待に応えるにはどうしたらよいのだろうと必死に考えました。

 ゲストのみなさまに最大限満足していただける料理を提供したい。もっと、美味しいものを。もっと美味しいものを!
考え続けたその結論は、ウェディングパーティーでも、レストランでお出ししている料理と変わらないグレードのものを提供することでした。同じクレードのものを、一番美味しい状態で席にお届けするために、さらに時間をシビアに考え、調理するようになりました。

Chapter04 古きを守り、新しきを求める

「軽い」と「重い」の評価
	軸

 フランス料理には、長い歴史があります。私はその根底に存在する道理を学び、伝統の調理法はなるべく崩さず、文化の継承を意識して料理を仕上げていくようにしています。

 現代的なフランス料理が流行する中、自分が働いてきたレストランすべてがそのような料理ではなくクラシックを主体とした料理を提供する所であったということもあり、どのような外見であっても、しっかりと手間をかけて作りあげた料理であれば、世に言う「軽い」「重い」という評価軸には当てはまらないと私は考えています。丹精こめて調理された料理には、その見た目がフュージョンであれクラシックであれ必ずある種の「重さ」が感じられるということです。

 私は、食材の量やソースの濃度など一皿における全体のバランスはもとより、料理を更なる高みに引き上げるためには「インパクトを与える物語(メニュー)」が大切であると考えています。盛りつけや色合い、香り、温度、味、タイミング。料理の評価要素は多々ありますが、そのすべてを料理人の想いにピタリと合致した状態でお客様に食べていただく。そうすれば、お客様は必ずいままでに感じたことのない衝撃を受けられると思うのです。一皿目の第一印象で期待感を出し、「終わりよければ全てよし」ではないですが、山場となるメイン、もしくは締めのデザートは特にインパクトを重要視してメニューを構成しています。

忘れられない料理

 ただ美味しいだけのお店ですと、すぐにお客さまに忘れられてしまうかもしれません。それをもう一度訪れたいレストランにする為には、インパクトが大事だと考えます。

 私はありがたいことに過去に多くの一流のシェフたちとの出会いに恵まれました。彼らの料理法は、基本や伝統に忠実でした。けれども、その仕上がりは個々に異なり、それぞれにすばらしい。私が目指したいのは、そのようなクラシカルなフランス郷土料理の調理法は変えずに、私なりの解釈を入れて良い意味で崩して仕上げる料理。つまり、「ネオクラシック(新古典)」の分野です。古典的なお店が少ない中にあって、そのスタンスはお客様に懐かしさと共に新鮮さを感じていただけるのではないかと思います。

食を楽しんでもらいたい

 時代だけを追う風潮の中にあって、あくまでもある時代に築き上げられた料理の根本を大切にする。そうして歴史に敬意をはらいながらできあがった料理は、食べる人にある種の説得力を感じさせることができると考えているのです。私はそんな料理を作ることを目指しています。

 私がこのようなことを考えながら日々調理をするのは、なぜか。すべては、お客様に「食を楽しんで帰ってもらいたい」という気持ち、これにつきます。
そのために、これからも「もっともっと美味しいもの」を求め続け、全力を尽くして調理していきます。

「ぶれないこだわりが説得力を生むのです」岡田 秀俊

  • 01 素材に感謝があたりまえ
  • 02 自分を追い込み磨きをかける
  • 03 理想との出会い
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