Mind Inerview01「最高のサーヴィスを表現できる場があります。」高野 真司 レストランマネージャー

Index

  • 01 おもてなしの体現
  • 02 無茶修行で培ったもの
  • 03 チームの力、個の華
  • 04 感動を喜びに、そして満足へ

Chapter01 おもてなしの体現

「また来たい」を引き出すために

 私は「おもてなし」と言う奥深い言葉を実際に行動として表し、お客様へ提供する「サーヴィス部門」を担当しています。

 どのようにすればお客様に喜んでいただけるか、どのようにすれば料理をより美味しく感じていただけるか、居心地の良い空間になるのか。そして、またこの店に訪れたいと思っていただけるか。ウエディングを行われるお二人はもとより、ゲストの皆様に心からくつろいで「また来たい」と思っていただける時間・空間をご提供できるように、マネージャーとしてチームをまとめていく役割をしています。

Chapter02 無茶修行で培ったもの

子守唄はカエルの声

 幼少期、酪農を営む祖父の元へよく訪れる機会がありました。牛の餌の牧草をかき集めると、その下からとぐろを巻いた蛇が飛び出してきたり、モグラやネズミの穴を崩して遊びながら畑を耕したり、田んぼのカエルの鳴き声を子守唄代わりに寝ついたり……本当に豊かな自然に囲まれた環境下で、採れたての野菜の味や、絞りたての新鮮なミルクの風味など本来の食材の美味しさを実体験を通じて学びました。

 自然の恵みのなかで、父と母から大きな愛情を受けて育った幼少期が、私の原点です。両親が子どもに対して献身的に無償の愛をもって尽くす姿を見ていたことが、私の「ホスピタリティの精神」の根底を作ったのではないかと思っています。

葡萄と添い寝した夜

 実は、サーヴィスのお仕事をはじめたのは、自分が食べて行くためだったのです。高校卒業後、音楽家になりたくバンド活動をしていたのですが、生活のためにバーテンダーの仕事をはじめたのがサーヴィスの世界に入ったきっかけでした。
そこでサーヴィスの世界の奥深さに触れ、昔から探究心旺盛だった性格もあってすっかりこの道にはまってしまいました。

 その後、イタリア料理レストランの 「リストランテ寺崎」にて寺崎オーナーに巡り合えたことが私の人生に大きな影響を与えました。彼はどうすればお客様から支持を受け楽しませることができるかを、実際にお店を一緒につくっていく中で学ばせてくれました。そこで培った考え方は今でもサーヴィスに携わる者としての自分の核となっています。

 同時期にワインの勉強をはじめたことでその面白さに夢中になった私は、卓上の勉強は性に合わず、本場を旅して武者修行(無茶修行!?)を積むことにしました。当時、ワイン醸造の最先端技術を持っていたアメリカのカリフォルニア州中のワイナリーを、300か所以上訪ね歩く一人旅を決行。畑の隣で葡萄の気持ちになって一日中寄り添い就寝したり、収穫移民の人たちに混ざり葡萄の収穫を手伝ったり、ワインの最新の醸造を見たり、片っ端からワインを飲みまくったりと自己研磨を積んできました。

忘れられないサーヴィス

 それを契機に、サーヴィスとワインの最高峰であるフランス料理に転向し、「プティポワン」、「新橋ミクニ」などのレストランや、大型ホテルでソムリエとして経験を積みました。

 ソムリエとしてお客様にワインを提供する中で、今度はヨーロッパのワインの伝統と偉大さに大いに感じ入り、フランスやイタリアなどヨーロッパ各国へ再びワイナリー巡りへ(同じ無茶修行の旅へ!)。

 現地では、何百年もの長い時間をかけて伝わり進化し続けてきたサーヴィスの真髄をまざまざと見せつけられ、驚きの連続でした。
まず、笑顔でのサーヴィスを基本としていること。日本式の固いサーヴィスをしているところはほとんど見受けられませんでした。格式あるレストランでも非常に柔らかいサーヴィスをしているのが印象的でした。
それから、サーヴィスの担当者が個性を活かした接客をしていること。あるレストランで接客してくれたソムリエが、大変な猫背の方でした。もちろん料理も、雰囲気も一流ですばらしかったのですが、私はそのソムリエのインパクトのある第一印象、そしてそれを超越したすばらしいサーヴィスが一番忘れられません。人の記憶に残るのは「インパクト」です。しかし、それを凌駕したサーヴィスはさらに脳裏に鮮烈に焼き付きます。そのようなサーヴィスを見せられて、自分の提供しているサーヴィスは「流れ作業になっていないか」「語り継がれるほどの印象をもたれるか」と改めて考えさせられました。今でもなお自問自答の機会を与えてくれる衝撃的な体験でした。

Chapter03 チームの力、個の華

時代に即した新しいサーヴィスを

 帰国後、株式会社エルガーハウスに入社。2004年に「エメ・ヴィベール」本店のプルミエ・メートル・ド・テル(サーヴィスの責任者)となり、今まで培ってきたサーヴィスの技術や知識を総動員し、過去の職場で一緒に苦楽を共にしてきた仲間を呼び集めてチームを組み、「最高のサーヴィス」をお客様に提供できる体制を整えました。
また、クープ・ジョルジュ・バプティスト優勝者(サーヴィス世界大会)の髙森修氏に師事し、コンクールに挑戦するなど、常に現状の自分に満足せず、サーヴィスの質を高めるような努力を続けました。

 2012年恵比寿にオープンした新店舖「メゾン エメ・ヴィベール」のプルミエ・メートル・ド・テルを経て、2014年、新店舗の「ボウ・デパール青山倶楽部」にてレストランマネージャーに就任しました。
クラシックなレストランの真髄でもあるチーム力を基本とするサーヴィスと現代の柔らかいサーヴィスを織り交ぜた、根幹がありつつも、現代の日本のお客様に本当に心地よいと思っていただけるような新しい形のサーヴィスを提唱し、実践しています。

五感を刺激する世界をつくる

 もともと、レストランの語源はラテン語の「回復させる」という意味の言葉からきています。
私たちの仕事は、お客様の日々の疲れを癒し、また未来への希望を養う時間を提供することだと思っています。同時に、お客様にとって大切な晴れ舞台を「最高の一日」に仕上げなければならない責任があります。レストランに来たお客様に嫌なことが起こることは、「ありえない」のです。

より良い時間を過ごしていただく為に、私たちスタッフはもてるすべてを尽くして、美味しい食事、心地よいサーヴィス、素晴らしいワインと非現実的な空間、お客様の五感を刺激する素晴らしい世界を提供し、お客様が心底幸せな気持ちと充足感を得てお帰りになるお手伝いをさせていただきます。

 欲張りかもしれませんが、それにプラスして自分とそのお客様としか理解できないジョークが、一つでもその場の華として添えられれば最高のサーヴィスとして完結できるのではないかと思っています。

 そういった姿勢の一つひとつをお客様に感じ取っていただけて、例えばウェディングパーティーを開催していただいたご夫婦に毎年のように記念日にお越しいただいたり、自分が店を移っても追いかけてご来店いただけたりすることが、私にとってこの上ない誇りです。

Chapter04 感動を喜びに、そして満足へ

“働いている感覚”の喪失

 お客様との触れ合いの中で自分なりのサーヴィスの表現を確立し、仲間と切磋琢磨することで進化させていく。お客様のご満足いただけた顔を見られることが、自分にとっては最高の喜びであり、より良いサーヴィスを目指す糧となります。私はその喜びを得て、自己を磨き続けたいがために仕事を続けているのです。誤解を恐れずにいえば、私にとってのサーヴィスの仕事は、自己実現そのものであり、「働いているという実感」はそこにはありません。

 自分の考える最高のサーヴィス表現をできる場がここにはあります。その場を中心に同じ方向を目指す同志が集まり、良い店が造られていく。全てが連鎖していることを実感できているからこそ、今私はここにいるのだと思います

苦しい自問自答

 一方で、「自分の思い描く理想」が達成できなかった時は、悔しくて悲しくて、なぜ出来なかったのか、どこで間違えたのか、厳しい問いがいくつも押し寄せてきます。この時間は非常に辛いのですが……。

 しかし、私は常にプロフェッショナルであることを意識しています。私が考えるプロフェッショナルとは、精神・技術・ホスピタリティがどれも欠けない状態で、それを実行・実現・成功させる事のできる者です。

 積み重ねた経験を次なる成功に繋げるには、追求すること、結果を出すこと、成功しても振り返ること……もっと良い会話が出来なかったか、もっとパフォーマンスをあげられなかったかなど現状に対してシビアに自問自答する姿勢が必要です。それらを経て次に活かし、必ず成功に導くことがプロフェッショナルと呼べる流儀ではないでしょうか。

 マネージャーとして必ず何事も率先して動くことでチームにその想いを共有しながら、一つ一つの課題をクリアしていくのが今までに私を導いてくれた方への恩返しであり、今の自分自身に求められる成長であると思って、折れずに前を向いて進んでいます。

空気のように流れる上質な時間

 サーヴィスを行うにあたって、私は常にお客様やスタッフの顔を見て動いています。もちろん皿の上やグラスの中も視野からは外しませんが、大切なのはその人の心を感じて動くことです。水が欲しいと思っているだろうから水を足すのではなく、水を欲しいと思う前に注がれている状態を整えること。気温を感じさせず、時間の流れを感じさせず、時には居心地の良さや悪さも感じさせず、気がつけば美味しい食事が終わっていて。「ふりかえってみれば、とにかく素晴らしい時間だった」と思っていただくそのさりげなさを理想としています。

 実は、それを達成するためには個人の技量はさほど重要ではありません。スタッフ全員が一人として欠けることなく「ホスピタリティの精神」と「プロフェッショナルの心」を持ち、チーム一丸となってお客様の一歩先を考えて動くこと。考えるだけではいけません。必ず実行に移すことが重要です。

 料理人が命を懸けて誠心誠意作った料理を、サーヴィスがクオリティを保ったままお客様の前に置く。そして人の気配にお客様がストレスを感じる前に自然に立ち去り、気付けば料理を説明するメートルが話をはじめている。各ポジションが自分の最大限のパフォーマンスを生み出し、想いを繋ぎ、お客様へ届ける。そのチーム団結の潤滑油の役目をするのが私の役割であり、さらにそこで生まれたお客様の感動をすべてのスタッフが自発的に自分の喜びに置き換えられるようにはたらきかけていくことが、結果としてお客様の満足へ繋がっていくのではないかと考えています。

「最高のサーヴィスを表現できる場があります。」高野 真司

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